我々の老後が現実問題としていかに厳しいものであるか理解する必要があります。こうした厳しい老後というのは、実は日本だけのものではありません。欧米諸国でも少子高齢化は着実に進んでおり、日本ほどの財政赤字はないものの、かつての社会主義国家のように大半の国民が老後は遊んで暮らせるなんていう国は、いまやこの地球上にはほとんど存在しません。スウェーデンなどでは、すでに年金の支給開始年齢が引き上げられて67歳からになるなど、先進国は軒並み年金財源の確保に苦しんでいるのが現実です。
米国のように人口が増え続けている国では年金制度もある程度期待できますが、やはり少子高齢化に悩む国では、年金に頼る老後は難しいかもしれません。余談ですが、日本がかつてのドイツやフランスのように積極的に移民の受け入れを進めれば、年金問題など簡単に解決するのかもしれません。外国人と一緒に暮らすかわりに、彼等に年金保険料を支払ってもらって、高齢者は豊かな老後を過ごす。そんな主張をする政党があらわれてもいい頃なのかもしれません。
ところで、そんな外国の事情と日本とではひとつだけ大きく異なるところがあります。日本人は老後のお金の使い方が国際的にかなり異質であると指摘されているのです。どういうことかというと、自分の財産を使いきって人生の幕を閉じる欧米諸国の人々に対して日本ではほとんど貯蓄に手をつけずに全財産を残したまま生涯を終える人が非常に多いことです。
こうした背景には、バブルが崩壊してから20年にも渡って経済の低迷が続き、日本の将来に対する希望を持てないという不安から個人消費が停滞しているという現実があります。現役世代の若者ですら将来に不安を抱いている状態では年金暮らしの高齢者は貯蓄を切り崩して消費するわけにはいきません。まして自分の家を売り、そのお金で豊かな生活を楽しもうなどという発想すらないかもしれません。
日本ではマスコミのプロパガンダによって「公的年金が役に立ちそうもなく今後は自己責任が問われる」といわれ続けてきました。そのため、日本人の多くは将来に対して不安感を抱き続けており、その反動としてたっぷりの老後資金を準備している、というわけです。その証拠ともいえるのが日本人の個人資産「1,439兆円」(日本銀行、家計の金融資産、2009年9月末現在)という金額です。米国の4,430兆円(1ドル=100円)には及びませんが、国際的に見ても個人資産はかなり豊かといえます。
そして、国際的に見て日本人の老後で際立っているのは、その資産の残し方です。家計総資産の国際比較などを見るとわかりますが、日本の老人がその生涯を終える時点で残す財産は金融資産だけで平均2,000万円前後といわれます。さらに家や土地を入れれば3,000万円以上に達する可能性もあります。
先祖代々からの家や土地の場合はともかくとしても、自分が貯めたお金や土地、建物くらいは使いきって生涯を閉じるべきだと私は思うのですが、なぜか子供たちにたっぷりと財産を残して死んでいくのが現実のようです。農耕民族のDNAがそうさせるのか、マスコミが毎日のように将来の不安を煽るために心配でお金を使わないのか、真意はわかりませんが、これは国際的に見ると異常な現象のようです。たとえばイタリア人などは「財産をちょうど使いきって生涯を終えるのが常識」とさえいわれています。
その背景には日本の金融機関が「リバースモーゲージ(住宅担保型老後資金ローン)」といった老後の資金をトータルで管理してくれる金融サービスに力を入れていないことが原因のひとつといえます。規制緩和が進んでいないのも原因のひとつです。むろん我々自身にも財産を使いきって生涯を閉じるという発想がないのも原因のひとつでしょう。また、日本の場合「子供が親の財産をあてにしている傾向が他の国よりも強い」という事情があるのかもしれません。
ただ、日本人は年齢を重ねていくごとに財産の額が増えていく傾向にあります。それに対して他の国では年齢を重ねるに従って資産額が減っていきます。実は、ここに今後の日本人の老後の過ごし方のヒントがあるのです。日本人も欧米の老人のように我慢せずに自分の財産を全部使いきる覚悟で豊かな老後を目指してはどうでしょうか。そうする権利もあるし、またそうせざるを得ない状況になる可能性もあります。
苦労して建てた家を子供に残す必要はありません。そもそも数少ない子供に残しても維持費が大変でいずれは手放さざるを得なくなります。かといって、現金などで残せば頑張って働かなくなり、ますます日本経済は停滞してしまうかもしれません。子供に財産を残すことは百害あって一理なしかもしれないのです。「自分の財産は自分で使いきって死ぬ」そんな老後を提案します。